- 2025年6月7日
子どもが急に腕を挙げたがらない!肘内障(ちゅうないしょう)の症状・原因・治療法を解説

肘内障(ちゅうないしょう)は、2歳から6歳頃の幼児によく見られる肘の怪我です。英語では「Pulled elbow(引っ張られた肘)」と呼ばれています。
この怪我は、子どもの手を急に引っ張った時に起こることが多いため、保護者の方には特に知っておいていただきたい疾患の一つです。適切な知識を持つことで、予防や早期対応が可能になります。
この記事では、肘内障の症状、原因、治療法について詳しく解説いたします。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。
『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。
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目次
【肘内障の症状と見分け方】

≪主な症状≫
肘内障が起こると、お子さんは以下のような症状を示します。
- 痛みと動作制限 突然腕を動かさなくなり、痛がって泣き続けます。特に肘を曲げ伸ばしする動作や、腕を上に上げる動作を嫌がります。
- 腕の位置の特徴 腕を体の横にだらんと下げ、手のひらを後ろ向きにした状態で保持します。この特徴的な姿勢は「肘内障の肢位(しい:体の位置)」と呼ばれています。
- 触診での所見 肘の外側を軽く押すと痛がります。しかし、明らかな腫れや変形は見られないことがほとんどです。
≪他の怪我との見分け方≫
- 骨折との違い 骨折の場合は、明らかな腫れや変形が見られることが多く、触れただけでも強い痛みを示します。肘内障では、見た目の変化はほとんどありません。
- 脱臼との違い 肘関節の完全脱臼では、肘の形が明らかに変形して見えます。肘内障は部分的な脱臼(亜脱臼)のため、外見上の変化は軽微です。
≪受診のタイミング≫
- 以下の症状が見られた場合は、速やかに受診してください。
- 明らかな腫れや変形がある
- 腕を全く動かそうとしない
- 触れると激しく痛がる
- 数時間経っても症状が改善しない
【肘内障が起こる原因とメカニズム】

≪解剖学的な背景≫
子どもの肘関節は、大人と比べて構造が未熟です。特に、橈骨頭(とうこっとう:肘の外側にある骨の先端部分)を支える輪状靭帯(りんじょうじんたい)が柔らかく、簡単に伸びたり外れたりしやすい状態にあります。
輪状靭帯は、橈骨頭を上腕骨(じょうわんこつ:上腕の骨)に固定する重要な役割を果たしています。この靭帯が不安定だと、ちょっとした力で橈骨頭が靭帯から外れてしまいます。
典型的な受傷パターン
手を引っ張る動作 最も多いのは、大人が子どもの手首や前腕を急に引っ張った時です。転びそうになった子どもを支えようとしたり、歩くのを嫌がる子どもを引っ張ったりする際に発生します。
腕をひねる動作 服を着せる時や、寝返りを打った時など、腕がひねられることでも起こります。子どもが寝ている間に肘内障を起こすこともあります。
年齢による発症しやすさ 2歳から6歳頃が最も発症しやすい年齢です。この時期は、輪状靭帯がまだ十分に発達していないためです。7歳を過ぎると、靭帯が丈夫になるため発症は少なくなります。
再発の傾向
一度肘内障を起こすと、再発しやすい傾向があります。これは、一度伸びた靭帯が元の強度に戻るまでに時間がかかるためです。初回発症後は、特に注意深く予防に努める必要があります。
【肘内障の治療法と整復手技】

≪診断の方法≫
- 問診 受傷の経緯、症状の出現時期、痛みの部位などを詳しくお聞きします。典型的な受傷パターンがあれば、肘内障の可能性が高いと判断できます。
- 身体診察 肘の状態、腕の動き、痛みの部位を確認します。特に、腕の位置や動かし方の特徴から診断することができます。
- レントゲン検査 必要に応じてレントゲン撮影を行いますが、肘内障では異常所見が見られないことがほとんどです。骨折や他の怪我を除外するために撮影する場合があります。
≪整復治療(せいふくちりょう)≫
肘内障の治療は、外れた橈骨頭を元の位置に戻す「整復」という手技を行います。
- 回外法(かいがいほう) 最も一般的な整復方法です。子どもの肘を90度曲げた状態で、前腕を外側にひねりながら肘を伸ばします。正しく整復されると「コクッ」という音がして、すぐに腕を動かせるようになります。
- 回内法(かいないほう) 回外法で整復できない場合に用いる方法です。前腕を内側にひねりながら肘を曲げる手技です。
≪整復後の管理≫
- 固定の必要性 通常、整復後の固定は必要ありません。ただし、再発を繰り返す場合や、整復に時間がかかった場合は、1〜2週間程度の軽い固定を行うことがあります。
- 経過観察 整復後は、腕の動きや痛みの有無を確認します。正常に動かせるようになれば、特別な制限は必要ありません。
- 再発予防の指導 保護者の方に、再発予防のための注意点をお伝えします。特に、手を引っ張る動作を避けることが重要です。
【予防法と日常生活での注意点】

≪基本的な予防法≫
- 手の引っ張り方に注意 子どもの手を引く時は、手首ではなく上腕(肩に近い部分)を持つようにしましょう。急に引っ張らず、ゆっくりと動かすことが大切です。
- 両手で支える 転びそうになった時は、片手で引っ張るのではなく、両手で脇の下を支えるようにして持ち上げましょう。
- 遊び方の工夫 ぶら下がり遊びや、腕を回す遊びは控えめにしましょう。特に、大人が子どもの腕を持って回転させる遊びは避けてください。
≪日常生活での具体的な注意点≫
- 服の着脱時 服を着せる時は、袖に腕を通す際に無理に引っ張らないよう注意しましょう。子どもが嫌がる時は、無理をせずゆっくりと行います。
- 階段や段差 階段を上る時は、手すりを持たせたり、大人が腰や背中を支えたりして、手を引っ張ることを避けましょう。
- 外出時の対応 人混みや危険な場所では、子どもの手首ではなく、しっかりと手のひらを握って歩きましょう。
【よくある質問と誤解】

Q: 肘内障は癖になりますか?
A: 一度起こすと再発しやすい傾向はありますが、年齢とともに靭帯が丈夫になるため、通常は7歳頃までに自然に起こらなくなります。適切な予防を心がけることで、再発のリスクを減らすことができます。
Q: 整復治療は痛いですか?
A: 整復の瞬間は多少の痛みを伴いますが、成功すればすぐに痛みは軽減します。多くの場合、整復後は何事もなかったように腕を動かすようになります。
Q: 家庭で整復を試みても良いですか?
A: 家庭での整復は推奨しません。不適切な手技により、かえって怪我を悪化させる可能性があります。必ず医療機関を受診してください。
Q: 肘内障を起こした後、運動制限は必要ですか?
A: 通常、整復後の運動制限は必要ありません。
結論
肘内障は、幼児期によく見られる肘の怪我ですが、適切な知識と対応により十分に予防や治療が可能です。
最も重要なのは予防です。子どもの手を引く際は、手首ではなく上腕を持つ、急に引っ張らない、両手で支えるなどの基本的な注意を守ることで、多くの肘内障を防ぐことができます。
もし肘内障が疑われる症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。早期の適切な治療により、お子さんの痛みをすぐに和らげることができます。
子どもの安全な成長のために、保護者の皆さまには肘内障についての正しい知識を持っていただき、日常生活での予防に努めていただければと思います。ご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
当院では肘内障の整復も行っておりますので、お気軽にご相談ください。