- 2025年5月26日
- 2025年5月27日
下肢静脈瘤は命に関わる?専門医が解説する誤解と正しい知識

「下肢静脈瘤があると脳梗塞になりやすい」「放置すると足を切断することになる」
このような不安を抱えていませんか?
インターネット上には下肢静脈瘤に関する間違った情報が多く流れており、多くの患者さんが不要な心配をされています。
下肢静脈瘤治療の専門医として、はっきりとお伝えします。
下肢静脈瘤は、そのままにしていても命に関わる病気ではありません。
今回は、下肢静脈瘤に関する誤解を解き、正しい知識をわかりやすくお伝えいたします。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。
『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。
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目次
【下肢静脈瘤と生命への影響】命に関わらない理由を解説

まず最初に、多くの方が心配される「下肢静脈瘤は命に関わるのか」という疑問にお答えします。
結論から申し上げると、下肢静脈瘤自体が直接的に生命を脅かすことはありません。
下肢静脈瘤とは何かを正しく理解しよう
下肢静脈瘤は、足の表面近くにある静脈が拡張して蛇行した状態のことです。
「静脈」とは、心臓に血液を戻す血管のことで、特に足の静脈は重力に逆らって血液を心臓まで送り返す重要な役割を担っています。
この静脈の弁(血液の逆流を防ぐ仕組み)が壊れることで、血液が逆流し、静脈が膨らんでしまうのが下肢静脈瘤です。
しかし、これは表面の血管の問題であり、生命維持に直結する重要な血管への影響はありません。
脳梗塞や心筋梗塞との関係について
「下肢静脈瘤があると脳梗塞や心筋梗塞になりやすい」という情報を見かけることがありますが、これは完全な誤解です。
脳梗塞や心筋梗塞は「動脈」という心臓から全身に血液を送る血管の病気です。
一方、下肢静脈瘤は「静脈」の病気であり、全く別の血管系統の問題なのです。
動脈と静脈は構造も機能も異なるため、下肢静脈瘤が脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めることはありません。
このような誤解が生まれる背景には、「血管の病気」という共通点だけで関連付けてしまう情報の混乱があります。
足の切断が必要になるという誤解
「下肢静脈瘤を放置すると足を切断しなければならなくなる」という情報も、全くの誤解です。
足の切断が必要になるのは、主に糖尿病による血流障害や重篤な動脈硬化症などの場合です。
これらは動脈の病気であり、静脈の病気である下肢静脈瘤とは根本的に異なります。
下肢静脈瘤単独が原因で足の切断が必要になることは、通常ありませんので、ご安心ください。
【下肢静脈瘤の実際の症状とリスク】本当に起こりうることを知ろう

では、下肢静脈瘤を放置した場合、実際にはどのような症状や問題が起こる可能性があるのでしょうか。
正しい知識を持つことで、適切な判断ができるようになります。
過度な心配は不要ですが、全く何もしなくて良いというわけでもありません。
下肢静脈瘤の典型的な症状
下肢静脈瘤の主な症状は、日常生活に支障をきたすレベルの不快感です。
足のだるさや重い感じ、むくみ、痛みなどが代表的な症状として現れます。
長時間立っていたり歩いたりした後に症状が強くなることが多く、夕方に悪化する傾向があります。
また、夜中に足がつったり(こむら返り)、かゆみを感じたりすることもあります。
これらの症状は、血液の循環が悪くなることで起こるもので、生命に危険はありませんが、生活の質を著しく低下させる可能性があります。
皮膚の変化と炎症
下肢静脈瘤が進行すると、皮膚に変化が現れることがあります。
静脈の周辺が茶色く色素沈着したり、皮膚が硬くなったりすることがあります。
これは「慢性静脈不全」という状態で、血液の流れが長期間悪いことで起こる変化です。
さらに進行すると、皮膚炎や湿疹のような症状が現れることもあります。
しかし、これらの皮膚の変化も、適切なケアと治療により改善可能な症状です。
血栓性静脈炎について
下肢静脈瘤の合併症として、血栓性静脈炎が起こることがあります。
これは静脈の中に血の塊(血栓)ができて炎症を起こす状態のことです。
患部が赤く腫れ、痛みを伴いますが、これも生命に関わる重篤な状態ではありません。
前述の通り、この血栓は脳梗塞や心筋梗塞の原因となる血栓とは性質が全く異なります。
適切な治療により比較的短期間で改善する症状です。
潰瘍形成の可能性
非常に稀なケースですが、下肢静脈瘤が重度に進行した場合、足首周辺に潰瘍(皮膚のただれ)ができることがあります。
これは「静脈性潰瘍」と呼ばれ、治りにくい傷として問題となることがあります。
ただし、これも生命に関わる状態ではなく、専門的な治療により治癒可能です。
また、日本では医療アクセスが良好なため、このような重篤な状態まで進行することは非常に稀です。
定期的な医師の診察を受けていれば、予防や早期発見が可能な合併症です。
【適切な下肢静脈瘤への対応】治療の必要性と選択肢

下肢静脈瘤は命に関わらないとはいえ、症状によっては治療を検討する価値があります。
現在は様々な治療選択肢があり、患者さんの症状や生活スタイルに応じた最適な治療法を選ぶことができます。
「命に関わらない=何もしなくて良い」ではないことを理解していただければと思います。
保存的治療の役割
軽度の下肢静脈瘤や症状が軽い場合は、保存的治療から始めることが多くあります。
弾性ストッキングの着用は、最も基本的で効果的な治療法の一つです。
適度な圧迫により血液の流れを改善し、症状の軽減や進行の抑制が期待できます。
生活習慣の改善も重要で、適度な運動や足を高く上げて休む、長時間同じ姿勢を避けるなどの工夫が効果的です。
これらの方法は、症状の管理には有効ですが、根本的な治癒は期待できません。
低侵襲治療の進歩
現在の下肢静脈瘤治療は、大きく進歩しています。
レーザー治療や高周波治療など、体への負担が少ない「低侵襲治療」が主流となっています。
これらの治療は局所麻酔で行うことができ、治療時間も30分程度と短時間で済みます。
治療後の回復も早く、多くの患者さんが翌日から通常の生活に戻ることができます。
入院の必要もなく、日帰りで治療を受けることが可能です。
専門医による適切な診断の重要性
下肢静脈瘤の治療を検討する際は、必ず血管外科専門医や下肢静脈瘤専門医による診断を受けることが重要です。
超音波検査により静脈の状態を詳しく調べ、最適な治療法を提案してもらいましょう。
症状の程度や患者さんの希望に応じて、治療法を選択することができます。
無理に治療を急ぐ必要はありませんが、症状が気になる場合は早めに専門医に相談することをお勧めします。
より詳しい情報について
下肢静脈瘤の症状や治療の詳しい内容については、当院の別のブログ「下肢静脈瘤を放置すると危険?専門医が解説する症状と治療の重要性」で詳しく解説しています。
治療のタイミングや具体的な治療法の選択基準など、より具体的な情報をお知りになりたい方は、ぜひそちらもご参照ください。
【まとめ】
下肢静脈瘤に関する誤解を解き、正しい知識をお伝えしました。
下肢静脈瘤は命に関わる病気ではなく、脳梗塞や足の切断といった深刻な合併症を引き起こすこともありません。
しかし、症状によっては生活の質を大きく損なう可能性があるため、適切な対応を検討することが大切です。
不安や疑問がある場合は、インターネットの情報に惑わされず、ぜひ下肢静脈瘤の専門医にご相談ください。
正しい診断と適切なアドバイスにより、安心して日常生活を送ることができるでしょう。
一人ひとりの症状に応じた最適な治療選択をサポートすることが、私たち専門医の使命だと考えています。