- 2025年5月26日
- 2025年5月27日
下肢静脈瘤に抗凝固薬は不要!専門医が解説する正しい治療法

下肢静脈瘤があるだけで、「血栓のリスクが高い」という理由で抗凝固薬を処方されたことはありませんか?
実は、この処方には疑問があるケースが多いのです。
下肢静脈瘤があっても血栓症のリスクは上がりませんし、血栓性静脈炎の血栓と脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす血栓は全く性質が異なります。
今回は、下肢静脈瘤治療の専門医として、なぜ下肢静脈瘤に抗凝固薬が不要なのか、血栓リスクに関する誤解について詳しく解説いたします。
適切な治療を受けるために、ぜひ正しい知識を身につけていただければと思います。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。
『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。
プロフィールはこちらから
🎥 この記事の内容を動画でご覧いただけます
お忙しい方や、まずはざっくり知りたい方のために、この記事のポイントを動画にまとめました。ぜひご覧ください。
ラジオ風の音声形式なので、家事や移動中など「ながら聞き」にもぴったりです。
目次
【下肢静脈瘤と抗凝固薬の現状】血栓リスクの誤解が生む問題

現在の医療現場では、下肢静脈瘤の患者さんに対して「血栓予防」という理由で抗凝固薬が処方されるケースが少なくありません。
抗凝固薬とは、血液を固まりにくくする薬のことで、ワーファリンやリクシアナなどが代表的な薬剤です。
「下肢静脈瘤があると血栓ができやすい」「血栓性静脈炎を予防しなければならない」という考えから処方されるのです。
しかし、この判断は医学的根拠に乏しく、患者さんに不要な負担をかけているのが現状です。
下肢静脈瘤と血栓症リスクの誤解
なぜこのような処方が行われるのでしょうか。
最大の理由は、下肢静脈瘤と血栓症リスクに関する誤解にあります。
「静脈瘤があると血液がよどんで血栓ができやすい」という単純な考えで処方されてしまうのです。
しかし実際には、下肢静脈瘤があっても深刻な血栓症のリスクが上がることはありません。
血栓性静脈炎が起こったとしても、それは表面の細い血管での軽微な炎症に過ぎないのです。
しかし、必要のない薬を服用することは、患者さんにとって負担にしかなりません。
患者さんが感じる不安と疑問
下肢静脈瘤で抗凝固薬を処方された患者さんからは、様々な不安の声をお聞きします。
「本当にこの薬が必要なのか分からない」「副作用が心配」といったご相談が多いのが現状です。
抗凝固薬には出血のリスクがあり、定期的な血液検査も必要になります。
日常生活での制約も多く、患者さんの負担は決して軽くありません。
だからこそ、本当に必要な場合にのみ使用されるべき薬なのです。
【血栓の種類と性質の違い】下肢静脈瘤に抗凝固薬が不要な理由

下肢静脈瘤に抗凝固薬が不要な理由を理解するためには、血栓の種類について知る必要があります。
血栓には大きく分けて「動脈血栓」と「静脈血栓」があり、さらに静脈血栓は「深部静脈血栓」と「表在静脈血栓」に分類されます。
それぞれ性質が全く異なるため、治療法も大きく変わってきます。
下肢静脈瘤に関連する血栓は「表在静脈血栓」に分類され、最も危険度の低いタイプの血栓です。
脳梗塞・心筋梗塞の血栓(動脈血栓)との違い
脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすのは「動脈血栓」です。
動脈は心臓から全身に血液を送る太くて重要な血管で、ここに血栓ができると生命に関わる危険な状態になります。
動脈血栓は血流が速い環境で形成されるため、非常に固くて取れにくい性質があります。
このタイプの血栓に対しては、抗凝固薬や抗血小板薬による積極的な治療が必要になります。
一方、下肢静脈瘤で起こる血栓は表面に近い細い静脈にできるもので、生命に直結する危険性はありません。
深部静脈血栓症との重要な区別
静脈血栓の中でも特に注意が必要なのが「深部静脈血栓症」です。
これは体の奥にある太い静脈にできる血栓で、肺塞栓症という命に関わる合併症を起こす可能性があります。
深部静脈血栓症に対しては、確実に抗凝固薬による治療が必要になります。
しかし、下肢静脈瘤に関連する血栓は皮膚の表面近くにある細い静脈の問題です。
この血栓が肺に飛んでいくことはほとんどなく、抗凝固薬による治療は必要ありません。
下肢静脈瘤の表在静脈血栓の特徴と自然経過
下肢静脈瘤で起こる表在静脈血栓には、以下のような特徴があります。
まず、血栓のサイズが小さく、血管壁にしっかりと付着しています。
そのため、血流に乗って他の部位に飛んでいく可能性は極めて低いのです。
また、時間の経過とともに血栓は自然に縮小し、最終的には線維化して無害化します。
つまり、特別な薬物治療を行わなくても、体の自然治癒力により改善していくのです。
炎症を抑える治療や圧迫療法など、症状を和らげる対症療法で十分な効果が得られます。
【適切な下肢静脈瘤の治療法】抗凝固薬に頼らない安全な方法

下肢静脈瘤の治療において最も重要なのは、正確な診断と適切な治療選択です。
抗凝固薬に頼らない治療法でも、十分に症状を改善し、合併症を予防することができます。
むしろ、不要な薬物治療を避けることで、患者さんの負担を大幅に軽減できるのです。
血栓性静脈炎に対する抗炎症薬による症状管理
万が一、下肢静脈瘤で血栓性静脈炎が起こった場合の主な症状は炎症による痛みや腫れです。
そのため、治療の中心となるのは抗炎症薬(NSAIDs)の使用です。
ロキソニンやイブプロフェンなどの一般的な痛み止めが効果的で、炎症を抑えながら痛みも和らげてくれます。
これらの薬は市販薬としても入手可能で、副作用のリスクも抗凝固薬に比べてはるかに低いものです。
短期間の使用であれば、ほとんどの患者さんが安全に服用できます。
圧迫療法の重要性
弾性ストッキングや弾性包帯による圧迫療法も、血栓性静脈炎の重要な治療法です。
適度な圧迫により血液の流れが改善され、症状の軽減と治癒の促進が期待できます。
圧迫療法には薬物療法のような副作用がなく、長期間安全に継続できる利点があります。
正しい圧迫の方法については、専門医や医療スタッフから指導を受けることが重要です。
局所治療と生活指導
患部に対する局所的な治療も効果的です。
患部を冷やしたり温めたりする温熱療法も、症状に応じて使い分けることができます。
生活面では、長時間の立位や座位を避け、適度な運動を心がけることが重要です。
下肢静脈瘤の根本的治療の重要性
下肢静脈瘤自体の根本的な治療も重要な選択肢です。
レーザー治療、硬化療法、ストリッピング手術などにより、静脈瘤そのものを治療することで血栓性静脈炎の予防にもつながります。
これらの治療は抗凝固薬よりもはるかに効果的で根本的な解決策となります。
現在は低侵襲な治療法も多く開発されており、患者さんの負担も軽減されています。
セカンドオピニオンの活用
もし現在抗凝固薬を処方されていて疑問に感じている場合は、セカンドオピニオンを求めることをお勧めします。
下肢静脈瘤の専門医や血管外科医に相談することで、より適切な治療法を見つけることができるでしょう。
抗凝固薬の中止については、必ず医師と相談の上で行うことが重要です。
自己判断での服薬中止は危険ですので、必ず専門医の指導のもとで行ってください。
【まとめ】
下肢静脈瘤があっても血栓症のリスクは上がりませんし、血栓性静脈炎の血栓は脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす血栓とは全く異なる性質を持っています。
そのため、基本的に抗凝固薬による治療は必要ありません。
下肢静脈瘤自体の適切な治療や、万が一血栓性静脈炎が起こった場合の抗炎症薬、圧迫療法などにより、安全かつ効果的に管理することができます。
現在不要な抗凝固薬を服用している可能性がある方は、ぜひ下肢静脈瘤の専門医にご相談ください。
正しい知識に基づいた適切な治療により、より安全で負担の少ない治療を受けることができるはずです。
患者さん一人ひとりの状態に応じた最適な治療を選択することが、私たち専門医の責務だと考えています。