- 2025年6月10日
- 2025年6月11日
脂質異常症とは?診断基準と4つのタイプを専門医がわかりやすく解説

健康診断の結果で「脂質異常症」と診断されたり、 「コレステロール値が異常です」と言われたことは ありませんか?
でも、実際に脂質異常症がどのような病気なのか、 どんな種類があるのか、わかりにくいと思います。
「総コレステロールって何?」 「LDLとHDLの違いがわからない」 「中性脂肪が高いとどうなるの?」
このような疑問をお持ちの方も多いでしょう。
今回は脂質異常症の 基本的な知識から診断基準、4つのタイプまで わかりやすく解説いたします。
あなたの健康管理に役立てていただけるよう、 ぜひ最後までお読みください。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。
『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。
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目次
【脂質異常症の基本知識と診断基準】

脂質異常症とは、血液中の脂質(コレステロールや 中性脂肪)の濃度が正常範囲から外れた状態を 指します。
以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、 善玉コレステロール(HDL)が低い場合も 含まれるため、現在は「脂質異常症」という 名称が使われています。
≪血液中の脂質の種類と役割≫
血液検査で測定される主な脂質は以下の4つです。
- 総コレステロール
血液中のすべてのコレステロールの合計値です。
コレステロールは細胞膜の構成成分や ホルモンの材料として重要な役割を 果たしています。 - LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
肝臓で作られたコレステロールを全身の 細胞に運ぶ役割を持っています。しかし、多すぎると血管壁に蓄積して 動脈硬化の原因となるため、 「悪玉」と呼ばれています。 - HDLコレステロール(善玉コレステロール)
全身の余ったコレステロールを肝臓に 運び返すお掃除役の働きをします。動脈硬化を防ぐ効果があるため、 「善玉」と呼ばれています。 - 中性脂肪(トリグリセライド)
エネルギー源として利用される脂質で、 余った分は体内に蓄積されます。食事の影響を受けやすく、特に糖質や アルコールの摂取により上昇します。
≪日本動脈硬化学会による診断基準≫
脂質異常症の診断は、空腹時の血液検査により 以下の基準で行われます。

≪検査を受ける際の注意点≫
正確な脂質検査を行うためには、 以下の点に注意が必要です。
- 12時間以上の絶食
中性脂肪は食事の影響を大きく受けるため、 検査前12時間以上は食事を摂らないことが 重要です。水分摂取は問題ありませんが、糖分を含む 飲み物は避けてください。 - 薬物の影響
一部の薬物(利尿剤、ステロイド薬など)は 脂質値に影響を与える可能性があります。服用中の薬がある場合は、必ず医師に 報告してください。 - 体調の影響
風邪や発熱、強いストレスなどの体調不良時は 脂質値が変動することがあります。体調が良い時に検査を受けることを お勧めします。
【脂質異常症の4つの主要タイプとその特徴】

脂質異常症は、異常を示す脂質の種類により 4つの主要なタイプに分類されます。
それぞれ異なる特徴と健康リスクを持っているため、 タイプに応じた適切な治療が必要です。
≪高LDLコレステロール血症≫
最も頻度が高く、動脈硬化のリスクが 高いタイプです。
- 原因 遺伝的要因、食生活(飽和脂肪酸の過剰摂取)、 運動不足、肥満、甲状腺機能低下症などが 原因となります。
- 健康への影響 LDLコレステロールが血管壁に蓄積することで 動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞の リスクが大幅に上昇します。
- 治療の重要性 LDLコレステロール値が10mg/dL下がるごとに、 心血管疾患のリスクが約1%減少することが 証明されています。
- 特に、既に心疾患や脳血管疾患の既往がある方は、 より厳格な管理が必要です。
≪低HDLコレステロール血症≫
善玉コレステロールが少ない状態で、 特に男性に多く見られます。
- 原因 遺伝的要因、運動不足、肥満、喫煙、 糖尿病、メタボリックシンドロームなどが 原因となります。
- 健康への影響 HDLコレステロールの低下により、 血管壁からのコレステロール除去能力が 低下し、動脈硬化が進行しやすくなります。
- 改善方法 HDLコレステロールを上げるためには、 有酸素運動が最も効果的です。
- 週3回以上の定期的な運動により、 HDLコレステロール値を10〜15%程度 上昇させることができます。
≪高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)≫
中性脂肪が高い状態で、生活習慣の影響を 強く受けるタイプです。
- 原因 糖質や脂質の過剰摂取、アルコールの 多量摂取、肥満、運動不足、糖尿病、 腎疾患などが原因となります。
- 健康への影響 軽度〜中等度の上昇(150〜499mg/dL)では 直接的な動脈硬化のリスクは比較的低いですが、 他の脂質異常症を合併することが多く、 総合的なリスクが上昇します。
- 重度の上昇(500mg/dL以上)では、 急性膵炎という重篤な合併症を 起こす危険があります。
- 食事への影響の大きさ 中性脂肪は食事の影響を最も受けやすい 脂質です。
- 糖質制限や節酒により、比較的短期間で 改善することが可能です。
≪混合型脂質異常症≫
複数の脂質異常が同時に存在する タイプです。
よくある組み合わせ
- 高LDL+低HDL
- 高LDL+高中性脂肪
- 高中性脂肪+低HDL
- 3つすべての異常
健康への影響 単独の異常よりも動脈硬化のリスクが 大幅に高くなります。
特に、糖尿病や メタボリックシンドローム の方に多く見られ、より積極的な 治療が必要です。
治療の複雑性 複数の異常に対して、それぞれに 適した治療法を組み合わせる必要があり、 専門医による総合的な管理が重要です。
【年齢・性別・リスク要因による管理目標の違い】

脂質異常症の治療目標は、患者さんの年齢、 性別、その他のリスク要因により 個別に設定されます。
≪リスク層別化による目標設定≫
低リスク群 他に動脈硬化のリスク要因がない方
- LDLコレステロール:160mg/dL未満
中リスク群
- LDLコレステロール:140mg/dL未満
高リスク群
- LDLコレステロール:120mg/dL未満
2次予防群 既に心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患の 既往がある方
- LDLコレステロール:100mg/dL未満
- 場合により70mg/dL未満
≪女性特有の考慮事項≫
- 閉経の影響 女性ホルモン(エストロゲン)には LDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを 上げる効果があります。閉経後はこの保護効果が失われるため、 脂質異常症のリスクが急激に上昇します。
- 妊娠・授乳期の注意 妊娠中は生理的に脂質値が上昇するため、 この時期の脂質検査結果は参考程度に 留める必要があります。
- また、妊娠中・授乳中は多くの 脂質異常症治療薬が使用できないため、 生活習慣の改善が中心となります。
まとめ
脂質異常症は、血液中の脂質バランスが 崩れた状態で、動脈硬化による重篤な 心血管疾患のリスクを高める重要な 疾患です。
高LDLコレステロール血症、低HDL コレステロール血症、高トリグリセライド血症、 混合型脂質異常症の4つの主要タイプがあり、 それぞれ異なる特徴と治療法があります。
診断は空腹時の血液検査により行われ、 患者さんのリスク要因に応じて個別の 治療目標が設定されます。
年齢、性別、既往歴、その他のリスク要因を 考慮した総合的な管理が重要で、 単に数値を下げるだけでなく、 将来の心血管疾患予防を目的とした 治療が行われます。
健康診断で脂質異常を指摘されたら、 自分がどのタイプに該当するのか、 どの程度のリスクがあるのかを 正しく理解することが大切です。
そして、専門医と相談しながら、 適切な生活習慣の改善や必要に応じた 薬物療法により、血管の健康を 守っていきましょう。
早期発見・早期治療により、 健康で質の高い生活を維持することが 可能です。