• 2025年6月8日

甲状腺機能低下症と亢進症の違い – 見逃せない初期症状と効果的な対処法

甲状腺の病気は「静かな病気」とも呼ばれ、初期症状が日常の疲れや体調不良と間違われやすいため、発見が遅れることがあります。この記事では、甲状腺機能低下症と亢進症の違いを明確にし、見落としやすい初期症状と効果的な対処法についてご紹介します。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。

『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。

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目次

  1. 【甲状腺とそのホルモンの働き】
  2. 【甲状腺機能低下症と亢進症の決定的な違い】
  3. 【見逃せない初期症状と受診のタイミング】
  4. 【診断と検査 – 何がわかる?】
  5. 【効果的な治療法と日常生活での対処法】

【甲状腺とそのホルモンの働き】

甲状腺は首の前部にある蝶形の小さな臓器で、私たちの体の代謝を調節する重要なホルモンを分泌しています。甲状腺から分泌される主なホルモンには、T3(トリヨードサイロニン)とT4(サイロキシン)があります。

これらのホルモンは体の様々な機能に影響を与えています:

  • 体温の調節
  • 心拍数のコントロール
  • 代謝速度の調整
  • 脳の発達と機能
  • 骨の健康維持
  • 筋肉の調整
  • 消化機能の管理

甲状腺ホルモンの分泌量が多すぎたり少なすぎたりすると、体全体にさまざまな症状が現れます。それが「甲状腺機能亢進症」と「甲状腺機能低下症」です。

【甲状腺機能低下症と亢進症の決定的な違い】

≪甲状腺機能低下症≫

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌量が少なくなる状態です。体の代謝が全体的に遅くなり、「エネルギー不足の状態」になります。

主な原因は:

  • 橋本病(自己免疫疾患)
  • 甲状腺の手術後
  • 放射性ヨード治療後
  • 先天的な甲状腺機能不全
  • ヨード欠乏(日本では稀)

≪甲状腺機能亢進症≫

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。体の代謝が異常に活発になり、「エンジンが吹かしっぱなし」のような状態になります。

主な原因は:

  • バセドウ病(自己免疫疾患)
  • 甲状腺結節(こぶ)からのホルモン過剰分泌
  • 一過性甲状腺炎
  • 薬剤性(ヨード含有薬剤など)

≪症状の対比表≫

以下の表で両者の症状の違いを明確に比較してみましょう:

症状の分類甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症
体温調節寒がり、低体温暑がり、微熱、多汗
体重変化増加(代謝低下)減少(食欲増加しても痩せる)
心拍数徐脈(遅くなる)頻脈(速くなる)、動悸
消化器症状便秘下痢、頻回の排便
精神状態無気力、抑うつ興奮、不安、イライラ
疲労感だるさ、倦怠感疲れやすさ(筋力低下)
皮膚乾燥、冷たい温かい、湿った感じ
毛髪・爪もろい、抜け毛細く柔らかい髪
睡眠過眠(よく眠る)不眠
特徴的症状顔や手足のむくみ眼球突出(バセドウ眼症)

【見逃せない初期症状と受診のタイミング】

甲状腺機能異常の初期症状は、日常生活の中で見逃されがちです。以下のような症状が続く場合は、甲状腺機能の検査を検討しましょう。

甲状腺機能低下症の初期サイン

  1. 原因不明の疲労感:十分に睡眠をとっても疲れが取れない
  2. 寒さに弱くなる:特に手足が冷えやすい
  3. わずかな体重増加:食事量が変わっていないのに体重が増える
  4. 皮膚の乾燥:保湿しても改善しにくい
  5. 記憶力の低下:集中力が続かない、物忘れが増える
  6. 便秘:以前より便通が悪くなる
  7. 声の変化:かすれ声になる、声が低くなる

甲状腺機能亢進症の初期サイン

  1. 動悸:安静にしていても心臓がドキドキする
  2. 多汗:特に夜間や軽い活動でも汗をかく
  3. 体重減少:食欲があるか増加しているのに体重が減る
  4. 手の震え:細かい作業がしづらい
  5. イライラ感:些細なことに神経質になる
  6. 暑さに弱い:周囲の人より暑がる
  7. 頻繁な排便:下痢ではないが排便回数が増える

受診のタイミング

以下のような場合は、内科または内分泌内科の受診をおすすめします:

  • 上記の症状が複数あり、2週間以上続いている
  • 症状が徐々に悪化している
  • 家族に甲状腺疾患の方がいる
  • 他の自己免疫疾患(リウマチ、1型糖尿病など)がある
  • 45歳以上の女性(特に閉経前後)
  • 妊娠を希望している、または妊娠中・産後

【診断と検査 – 何がわかる?】

甲状腺機能異常の診断には、主に以下の検査が行われます。

≪血液検査≫

  • TSH(甲状腺刺激ホルモン):脳下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺機能のバロメーターとなります
  • 遊離T4(FT4)と遊離T3(FT3):実際に甲状腺から分泌されるホルモン量を測定します
  • 抗体検査
    • 抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体(橋本病の診断)
    • TSH受容体抗体(バセドウ病の診断)

≪甲状腺機能低下症の検査結果特徴≫

  • TSH:高値
  • FT4、FT3:低値または正常下限
  • 抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体:陽性(橋本病の場合)

≪甲状腺機能亢進症の検査結果特徴≫

  • TSH:低値または検出限界以下
  • FT4、FT3:高値
  • TSH受容体抗体:陽性(バセドウ病の場合)

≪画像診断≫

  • 超音波検査(エコー):甲状腺の大きさ、形状、内部の状態を観察します
  • シンチグラフィ:甲状腺の機能的な活動状態を視覚化します(主にバセドウ病や結節の評価)

【効果的な治療法と日常生活での対処法】

≪甲状腺機能低下症の治療≫

  1. ホルモン補充療法
    • レボチロキシン(合成T4)を毎日服用
    • 少量から開始し、症状と血液検査結果を見ながら徐々に増量
    • 一生涯の服用が必要なケースが多い
  2. 服薬の注意点
    • 朝起きた時、空腹時に服用(食事の30分前)
    • カルシウム剤、鉄剤、胃薬との併用は間隔をあける(4時間以上)
    • 用量は医師の指示に従い、自己判断で中止しない

≪甲状腺機能亢進症の治療≫

  1. 抗甲状腺薬
    • メチマゾールやプロピルチオウラシルを服用
    • ホルモン合成を抑制する効果
    • 通常1〜2年の服用で約半数が寛解
  2. 放射性ヨード療法
    • 放射性ヨードを内服し、甲状腺組織を選択的に破壊
    • 外来で行える比較的安全な治療法
    • 妊娠中・授乳中は禁忌、治療後も一定期間の避妊が必要
  3. 手術療法
    • 甲状腺の一部または全部を切除
    • 効果は確実だが、全身麻酔が必要
    • 術後に甲状腺機能低下症になることがある

≪日常生活での対処法≫

甲状腺機能低下症の方へ

  1. 体温管理
    • 重ね着をする、暖かい飲み物を摂る
    • 入浴で体を温める習慣をつける
  2. 食事の工夫
    • 食物繊維を多く含む食品(便秘対策)
    • 適度なヨード摂取(海藻類)
    • 鉄分、セレン、亜鉛、ビタミンDを含む食品
  3. 運動習慣
    • ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に
    • 筋力トレーニング(軽いもの)で代謝アップ
  4. 服薬管理
    • 朝の習慣として同じ時間に服用
    • お薬手帳で他の薬との相互作用を確認

甲状腺機能亢進症の方へ

  1. ストレス管理
    • リラクゼーション法を習得(深呼吸、瞑想など)
    • 十分な休息を取る
  2. 食事の注意点
    • 医師の指示に従い、過剰なヨード摂取を避ける
    • カロリー摂取量を適切に保つ(体重減少対策)
    • カフェインの摂取を控える
  3. 眼症状のケア(バセドウ眼症の場合)
    • 人工涙液の使用
    • 就寝時に頭部を少し高くする
    • サングラスの着用(紫外線・風から保護)
  4. 運動の調整
    • 心拍数上昇を避ける低〜中強度の運動を選ぶ
    • 過度な運動は避ける

まとめ

甲状腺機能低下症と亢進症は、それぞれ対照的な症状を示しますが、いずれも早期発見と適切な治療が大切です。初期症状は日常的な不調と見分けがつきにくいため、自分の体の変化に敏感になり、少しでも気になる症状が続く場合は医療機関を受診しましょう。

現代の医療では、適切な治療を受ければ多くの方が症状をコントロールし、通常の生活を送ることができます。自己判断で治療を中断せず、定期的に検査を受けながら、医師と連携して長期的な健康管理を行いましょう。

甲状腺疾患は「一生付き合っていく病気」と考えられがちですが、正しい知識と対処法で、その影響を最小限に抑えることができます。この記事が皆さんの健康維持の一助となれば幸いです。

前立腺の健康は男性の生活の質に大きく関わります。この記事が皆様の健康維持のお役に立てば幸いです。


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