• 2025年8月16日

なぜSASは放置できない?高血圧・脳卒中リスクを医師が分かりやすく解説

「いびきぐらいで大げさな…」「日中眠いだけだし、命に関わるわけじゃない」

SAS(睡眠時無呼吸症候群)と診断されても、このように軽く考えている方が少なくありません。しかし、これは非常に危険な考え方です。

SASは単なる睡眠の問題ではありません。放置すると、高血圧、心筋梗塞、脳卒中など、命に関わる重大な病気を引き起こすリスクが大幅に高まるのです。

実際の医学的データを見ると、SAS患者の高血圧発症リスクは健康な人の約2-3倍、脳卒中のリスクは約4倍に上昇することがわかっています。さらに怖いのは、これらの病気が働き盛りの年代でも発症する可能性があることです。

「まだ若いから大丈夫」「症状が軽いから問題ない」そんな油断が、将来の重大な健康被害につながってしまいます。

今回は、SASがなぜこれほど危険な病気なのか、どのようなメカニズムで高血圧や脳卒中を引き起こすのかを、医学的根拠とともに詳しく解説します。
あなたの健康と生命を守るために、SASの本当の怖さを知ってください。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。

『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。

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目次

  1. 【SASが血管を破壊する!高血圧発症の恐るべきメカニズム】
  2. 【脳卒中リスク4倍増!SASが脳血管に与える影響】
  3. 【早期発見が鍵!SASを見つける方法と治療への第一歩】

【SASが血管を破壊する!高血圧発症の恐るべきメカニズム】

SASの患者さんの約半数が高血圧を合併しています。なぜSASがこれほど高血圧を引き起こしやすいのでしょうか。そのメカニズムを詳しく見ていきましょう。

無呼吸が起こると、体内の酸素濃度が急激に低下します。脳は酸素不足を感知し、全身に酸素を送るため心臓の働きを強める指令を出します。この結果、血圧が急上昇するのです。

一晩に何十回、重症の場合は何百回もこの血圧上昇が繰り返されます。血管は一晩中、異常な高血圧にさらされ続けることになります。これが毎晩続くのです。

さらに深刻なのは、交感神経の異常な活性化です。無呼吸による酸素不足は、自律神経のバランスを大きく崩します。交感神経が過度に刺激され、血管を収縮させる物質が大量に放出されます。

レニン・アンジオテンシン系という血圧調整システムも異常をきたします。腎臓から分泌されるレニンという酵素が増加し、血管を収縮させるアンジオテンシンⅡという物質が過剰に産生されます。

炎症反応も重要な要因です。慢性的な酸素不足により、血管壁に炎症が起こります。炎症性サイトカインという物質が放出され、血管の柔軟性が失われ、硬くなってしまいます。

内皮機能の低下も見逃せません。血管の内側を覆う内皮細胞が障害され、血管を拡張させる一酸化窒素の産生が減少します。その結果、血管が収縮しやすい状態が続きます。

最も恐ろしいのは、これらの変化が昼間にも持続することです。夜間だけでなく、日中の血圧も高い状態が続くようになります。通常の降圧薬が効きにくい「治療抵抗性高血圧」になることも少なくありません。

血圧の日内変動パターンも異常になります。健康な人では夜間に血圧が下がりますが、SAS患者では夜間も高血圧が続く「non-dipper型」という危険なパターンを示します。

これらの複合的な要因により、SAS患者では高血圧の発症リスクが2-3倍に上昇し、一度発症すると治療が困難になることが多いのです。

【脳卒中リスク4倍増!SASが脳血管に与える影響】

SAS患者の脳卒中発症リスクは、健康な人の約4倍に上昇します。なぜこれほど高いリスクになるのでしょうか。脳血管への影響を詳しく解説します。

脳梗塞の最大の原因は、血栓(血の塊)の形成です。SASでは、血液の粘度が上昇し、血栓ができやすい状態になります。酸素不足により赤血球が増加し、血液がドロドロになるのです。

血小板の機能も異常になります。血小板は本来、出血時に血を止める重要な働きをしますが、SASでは必要以上に活性化され、血管内で血栓を作りやすくなります。

血管内皮の障害も深刻な問題です。慢性的な酸素不足と血圧上昇により、脳血管の内皮細胞が傷つきます。傷ついた血管壁には血栓が付着しやすくなります。

頸動脈の動脈硬化も進行しやすくなります。頸動脈は脳に血液を送る重要な血管ですが、SASがあるとこの血管の動脈硬化が急速に進み、脳梗塞の原因となります。

心房細動という不整脈も高頻度で合併します。SASにより心臓に負担がかかり、心房が不規則に収縮するようになります。心房細動があると、心臓内で血栓ができ、それが脳に飛んで大きな脳梗塞を起こす危険があります。

脳出血のリスクも上昇します。夜間の急激な血圧上昇により、脳血管に過度な圧力がかかります。特に小さな脳血管(細動脈)が破れやすくなり、脳出血を引き起こします。

脳の血流自動調節機能も障害されます。通常、脳は血圧の変動に対して血流を一定に保つ機能がありますが、SASではこの機能が低下し、血圧の変動がそのまま脳血流の変動につながってしまいます。

認知機能への影響も深刻です。慢性的な酸素不足により、脳の神経細胞が徐々に障害されます。記憶力の低下から始まり、将来的には血管性認知症のリスクも高まります。

特に注意が必要なのは、これらの変化が比較的若い年代から始まることです。40-50代のSAS患者でも、60-70代の健康な人と同程度の脳血管病変を認めることがあります。

夜間から早朝にかけての脳卒中発症率も高くなります。この時間帯は血圧が最も不安定になりやすく、脳血管事故が起こりやすいタイミングなのです。

【今すぐ行動を!合併症を防ぐ治療法と生活改善策】

これらの恐ろしい合併症を防ぐために、どのような対策があるのでしょうか。効果的な治療法と生活改善策をご紹介します。

CPAP療法の驚くべき効果
SASの標準治療であるCPAP療法(シーパップ療法)は、これらのリスクを劇的に改善します。治療開始後、多くの患者さんで血圧の低下が見られ、降圧薬の減量が可能になります。

CPAP療法により、夜間の血圧上昇が抑制され、血管への負担が大幅に軽減されます。交感神経の過度な活性化も改善し、自律神経のバランスが正常化します。

血液の粘度も改善します。酸素不足が解消されることで、赤血球の過剰な増加が抑制され、血液がサラサラになります。血栓形成のリスクも大幅に減少します。

心房細動などの不整脈も改善することが多く報告されています。心臓への負担が軽減され、正常なリズムを取り戻すことができます。

薬物療法の併用
高血圧が既に発症している場合は、降圧薬との併用治療が重要です。ただし、SASがある場合の降圧薬選択には注意が必要で、専門医との相談が欠かせません。

ACE阻害薬やARBという種類の降圧薬は、SAS患者に特に有効とされています。これらの薬は血管の炎症を抑制し、血管保護作用も期待できます。

抗血小板薬(アスピリンなど)も、血栓予防のために処方されることがあります。ただし、出血リスクとのバランスを考慮した慎重な判断が必要です。

生活習慣の改善
減量は最も重要な対策の一つです。体重を10%減らすだけでも、SASの重症度が大幅に改善し、血圧や脳卒中リスクの低下が期待できます。

禁煙も絶対に必要です。タバコは血管を収縮させ、動脈硬化を進行させます。SASと喫煙の組み合わせは、血管に対して破壊的な影響を与えます。

節酒も重要です。アルコールは気道周囲の筋肉を弛緩させ、SASを悪化させます。週に2日以上の休肝日を設け、適量を心がけましょう。

規則正しい睡眠リズムを保つことも大切です。睡眠不足や不規則な睡眠は、SASを悪化させ、血圧の変動を大きくします。

定期的な検査とフォローアップ
SASの方は、定期的な心血管系の検査が必要です。血圧測定、心電図、心エコー、頸動脈エコーなどにより、合併症の早期発見に努めます。

血液検査では、動脈硬化の指標や炎症マーカー、血糖値などをチェックします。これらの数値の変化により、治療方針を調整していきます。

脳MRIや脳ドックも定期的に受けることをお勧めします。無症状の小さな脳梗塞(無症候性脳梗塞)の有無を確認し、必要に応じて追加の治療を検討します。


まとめ

SASは「いびきの病気」ではありません。放置すれば命に関わる重大な合併症を引き起こす、全身の血管病なのです。高血圧や脳卒中のリスクが数倍に上昇するという医学的事実を、決して軽視してはいけません。

しかし、適切な治療により、これらのリスクは大幅に改善できます。CPAP療法をはじめとする治療法は年々進歩しており、多くの患者さんが健康な生活を取り戻しています。

「症状が軽いから」「まだ若いから」という理由で治療を先延ばしにすることは、将来の重大な健康被害につながります。心筋梗塞や脳卒中が起こってからでは、取り返しのつかない後遺症が残る可能性があります。

SASと診断された方、疑いがある方は、今すぐ専門医と相談し、適切な治療を開始してください。あなたの生命と健康を守るために、一日も早い行動が必要です。

家族のため、そして何より自分自身のために、SASの治療に真剣に取り組みましょう。質の良い睡眠と健康な血管を取り戻し、安心して長生きできる人生を手に入れてください。

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