• 2025年8月26日

無症状でも安心できない理由—高血圧のサイレントリスクと対策

「血圧が高いと言われたけれど、特に体調に変化を感じない」「症状がないから大丈夫だろう」そう思っていませんか?実は、これこそが高血圧の最も恐ろしい特徴なのです。

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれています。なぜなら、自覚症状がほとんどないまま、体の中で静かに、しかし確実に重要な臓器にダメージを与え続けているからです。

脈管専門医として、症状がないからといって安心してはいけないということを、今回は詳しくお伝えしたいと思います。高血圧のサイレントリスクを正しく理解し、適切な対策を取ることで、将来の重篤な合併症を予防することができるのです。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。

『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。

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目次

  1. 【なぜ高血圧は「症状がない」のか?】
  2. 【サイレントリスク1】血管へのダメージが静かに進行する
  3. 【サイレントリスク2】心臓への長期的な負担と機能低下
  4. 【サイレントリスク3】腎臓機能の静かな悪化
  5. 【サイレントリスク4】脳血管への影響と認知機能低下
  6. 【効果的な対策1】定期的な健康チェックと早期発見
  7. 【効果的な対策2】生活習慣の包括的な改善

【なぜ高血圧は「症状がない」のか?】

高血圧で症状が現れにくい理由は、私たちの体が持つ「適応能力」にあります。血圧が徐々に上昇していく場合、体は少しずつその状態に慣れてしまうため、自覚症状を感じにくくなるのです。

これは、暗い場所にいると目が慣れて見えるようになるのと似ています。体は高い血圧状態を「普通」だと認識してしまい、不快な症状として感じ取れなくなってしまうのです。

また、高血圧による臓器への影響は、長期間にわたって少しずつ進行するため、急激な変化として体感されることがありません。このため、多くの人が「問題ない」と錯覚してしまうのが現状です。

しかし、症状がないからといって、体に何も起こっていないわけではありません。見えないところで確実に血管や臓器への負担が蓄積されているのです。

【サイレントリスク1】血管へのダメージが静かに進行する

◎動脈硬化の進行メカニズム

高血圧状態が続くと、血管壁に常に高い圧力がかかり続けます。この状態は、ホースの中を高圧の水が流れ続けているのと同じです。最初は柔軟だった血管壁も、この圧力に対抗するため徐々に厚くなり、硬くなっていきます。

この変化を「動脈硬化」と呼びます。動脈硬化が進行すると、血管の内腔が狭くなり、血液の流れが悪くなります。さらに進行すると、血管壁にコレステロールなどが蓄積し、プラークと呼ばれる固まりを形成します。

このプラークが破れると血栓ができ、血管を完全に塞いでしまうことがあります。これが心臓で起これば心筋梗塞、脳で起これば脳梗塞となるのです。恐ろしいことに、これらの変化は痛みも症状もなく静かに進行します。

◎血管年齢の早期老化

正常な血圧の人と比べて、高血圧の人の血管は10-20歳も早く老化が進むことが研究で明らかになっています。30代で高血圧があると、血管年齢は50代相当になっている場合もあるのです。

血管の柔軟性が失われると、心臓はより強い力で血液を送り出さなければならなくなり、心臓への負担も増加します。この悪循環により、心臓と血管の両方にダメージが蓄積されていきます。

血管年齢の測定は、動脈硬化の程度を知る重要な指標です。ABI(足首上腕血圧比)などの検査で評価できるので、定期的にチェックすることをお勧めします。

【サイレントリスク2】心臓への長期的な負担と機能低下

◎左心室肥大の進行

高血圧により心臓が高い圧力に対抗し続けると、心臓の筋肉(特に左心室)が肥大してきます。これは筋力トレーニングで筋肉が太くなるのと似た現象ですが、心臓の場合は必ずしも良いことではありません。

左心室肥大が進行すると、心臓の収縮力は一時的に強くなりますが、やがて心筋の柔軟性が失われ、拡張機能が低下します。つまり、心臓が十分に膨らまなくなり、血液を効率よく送り出せなくなるのです。

この状態は「拡張機能不全」と呼ばれ、息切れや疲労感の原因となります。しかし初期段階では症状が現れにくく、気づいたときには心不全が進行していることも少なくありません。

◎不整脈のリスク増加

高血圧により心臓の構造が変化すると、心房細動などの不整脈が起こりやすくなります。心房細動は心臓の上の部屋(心房)が不規則に震える病気で、血栓形成のリスクを高めます。

心房細動による血栓が脳に飛ぶと、脳塞栓症という重篤な脳梗塞を引き起こします。このタイプの脳梗塞は症状が重く、後遺症が残りやすいという特徴があります。

心房細動は初期には症状がないことも多く、健康診断の心電図で初めて発見されることもあります。高血圧がある方は、定期的な心電図検査が重要です。

【サイレントリスク3】腎臓機能の静かな悪化

◎腎硬化症の進行

腎臓は血液をろ過する臓器で、無数の細い血管(糸球体)からできています。高血圧により、これらの細い血管にも高い圧力がかかり続けると、血管壁が厚くなり、ろ過機能が低下します。

この状態を「腎硬化症」と呼びます。腎硬化症が進行すると、老廃物を体外に排出する能力が低下し、最終的には人工透析が必要になる場合もあります。

腎臓機能の低下は初期段階では全く症状がありません。むくみや尿の異常が現れたときには、すでに腎機能の60-70%が失われていることも多いのです。

◎高血圧と腎臓病の悪循環

腎臓機能が低下すると、血圧を調節するホルモンのバランスが崩れ、さらに血圧が上昇しやすくなります。つまり、高血圧が腎臓を傷つけ、傷ついた腎臓がさらに血圧を上げるという悪循環が生まれるのです。

この悪循環を断ち切るためには、早期からの血圧管理が極めて重要です。血清クレアチニンやeGFR(推定糸球体ろ過量)などの検査値を定期的にチェックし、腎機能の変化を早期に発見することが大切です。

尿たんぱくの検査も重要な指標です。微量のたんぱく質が尿に出始めた段階で適切な対策を取れば、腎機能の悪化を大幅に遅らせることができます。

詳しくは、こちら【高血圧が引き起こす”腎臓ダメージ”、知られざる深刻な影響】もご参照ください。

【サイレントリスク4】脳血管への影響と認知機能低下

◎無症候性脳梗塞の増加

高血圧があると、症状を起こさない小さな脳梗塞(無症候性脳梗塞)が静かに増加していきます。MRI検査を行うと、症状がないにも関わらず、脳の中に小さな梗塞の跡がたくさん見つかることがあります。

これらの小さな梗塞は一つ一つは症状を起こしませんが、積み重なることで脳の機能に影響を与えます。特に記憶や判断力を司る部分に影響が及ぶと、認知機能の低下につながります。

高血圧の人は、正常血圧の人と比べて血管性認知症のリスクが2-3倍高くなることが研究で示されています。認知症の予防においても、血圧管理は極めて重要な要素なのです。

◎脳出血のリスク

高血圧により脆くなった脳血管は、破れやすくなります。脳出血は突然発症し、重篤な後遺症を残したり、生命に関わることもある恐ろしい病気です。

特に深部の小さな血管(穿通枝動脈)が破れる脳内出血は、高血圧が最大の原因とされています。この血管の変化も症状なく進行するため、定期的な血圧管理が予防の鍵となります。

脳ドックなどで脳の血管の状態をチェックすることも大切です。微小出血や血管の変化を早期に発見し、適切な血圧管理を行うことで、将来のリスクを大幅に減らすことができます。

【効果的な対策1】定期的な健康チェックと早期発見

◎家庭血圧測定の重要性

サイレントリスクに対抗する最も基本的な方法は、定期的な血圧測定です。病院での測定だけでなく、家庭での血圧測定を習慣化することが重要です。

家庭血圧は、白衣高血圧や仮面高血圧の発見にも役立ちます。病院では正常でも家庭で高い場合(仮面高血圧)や、その逆の場合(白衣高血圧)があり、適切な診断のためには家庭血圧の情報が欠かせません。

朝と夜の1日2回、起床後1時間以内と就寝前に測定し、記録をつけましょう。スマートフォンのアプリを活用すれば、データの管理や医師への報告も簡単になります。

◎包括的な健康診断の受診

血圧だけでなく、心臓、腎臓、血管の状態を総合的にチェックすることが大切です。

心電図検査で心房細動や左心室肥大をチェック、心エコー検査で心臓の機能と構造を評価、血液検査でクレアチニンやeGFRによる腎機能の確認、尿検査でたんぱく尿の有無を確認します。

眼底検査も重要です。眼底の血管は体の中で唯一直接観察できる血管であり、動脈硬化の程度を評価する貴重な情報源となります。

【効果的な対策2】生活習慣の包括的な改善

◎DASH食事法の実践

DASH(高血圧を止める食事アプローチ)食事法は、科学的に効果が証明された食事療法です。野菜、果物、全粒穀物、低脂肪の乳製品を多く摂り、赤身肉、砂糖、飽和脂肪酸を制限します。

塩分は1日6グラム以下に抑え、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラルを積極的に摂取します。この食事法により、血圧が平均で8-14mmHg下がることが報告されています。

外食が多い方は、定食を選び、汁物は残す、ドレッシングは別添えにする、野菜を先に食べるなどの工夫をしてみてください。小さな変化の積み重ねが大きな効果を生みます。

◎有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ

週150分以上の中強度有酸素運動(早歩き、軽いジョギング、サイクリングなど)と、週2回の筋力トレーニングを組み合わせることが推奨されています。

運動による血圧低下効果は即効性があり、運動直後から24時間程度続きます。継続することで、安静時血圧も確実に改善します。

運動習慣がない方は、1日10分の散歩から始めて、徐々に時間と強度を増やしていきましょう。階段の利用、家事の活用など、日常生活に運動を取り入れることから始めても効果的です。

◎ストレス管理と十分な睡眠

慢性的なストレスは交感神経を刺激し、血圧上昇の原因となります。深呼吸、瞑想、ヨガなどのリラクゼーション技法を身につけることが重要です。

質の良い睡眠も血圧管理に欠かせません。睡眠中は血圧が10-20%下がりますが、睡眠不足ではこの自然な血圧低下が起こりにくくなります。7-8時間の睡眠を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。

禁煙と節酒も重要な対策です。喫煙は血管を収縮させ、過度の飲酒は血圧を上昇させます。これらの生活習慣の改善により、薬物療法の効果も高まります。


まとめ:症状がないからこそ対策が重要

高血圧のサイレントリスクは、症状がないからこそ恐ろしいものです。血管、心臓、腎臓、脳への影響は静かに、しかし確実に進行し、気づいたときには取り返しのつかない状態になっていることもあります。

しかし、適切な知識と対策があれば、これらのリスクは十分に予防できます。定期的な健康チェックによる早期発見と、生活習慣の包括的な改善により、将来の重篤な合併症を防ぐことができるのです。

「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がないからこそ注意が必要」という認識を持つことが大切です。今日から始められる対策があります。まずは家庭血圧の測定から始めて、徐々に生活習慣を改善していきましょう。

あなたの健康な未来のために、高血圧のサイレントリスクに立ち向かっていきましょう。
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