- 2025年8月16日
夜トイレが何度も…頻尿もSASのサイン?意外な見逃せない症状とは

「最近、夜中に何度もトイレで目が覚める」「以前は朝まで一度も起きなかったのに…」
このような夜間の頻尿に悩んでいる方は多いのではないでしょうか。特に中高年の方では「年のせい」と諦めてしまいがちです。
しかし、その夜間頻尿、実は「SAS(睡眠時無呼吸症候群)」が原因かもしれません。
SASとは、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。いびきや日中の眠気が代表的な症状として知られていますが、実は夜間頻尿も重要なサインの一つなのです。
「まさか頻尿とSASが関係あるなんて…」と驚かれる方も多いでしょう。しかし、医学的にはしっかりとしたメカニズムがあり、多くの患者さんに見られる症状です。
今回は、夜間頻尿とSASの意外な関係について詳しく解説します。
あなたの夜間頻尿の本当の原因を見つけ、質の良い睡眠を取り戻すためのお手伝いをします。

この記事を書いた、院長の高見 友也です。
『不安を安心に』変えることのできるクリニックを目指して、幅広い診療を行っています。ここでは、いくつかの専門医をもつ立場から、病気のことや治療のことをわかりやすく説明しています。
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目次
【なぜSASで夜間頻尿が起こる?知られざるメカニズム】

夜間頻尿とSASの関係は、一見すると不思議に思えるかもしれません。しかし、体の中では複雑なメカニズムが働いています。
まず、SASでは睡眠中に呼吸が止まることで、体内の酸素濃度が低下します。すると、心臓は酸素を全身に送ろうと激しく働き、血圧が急激に上昇します。
この血圧上昇により、腎臓への血流が増加します。腎臓は血流量が増えると、より多くの尿を作り出します。これが夜間の尿量増加の一つの原因です。
また、心房という心臓の部屋に圧力がかかると「ANP(心房性利尿ペプチド)」というホルモンが分泌されます。このホルモンには利尿作用があり、尿の量を増やします。
さらに、SASでは睡眠の質が悪くなるため、「抗利尿ホルモン(ADH)」の分泌リズムが乱れます。このホルモンは通常、夜間に分泌量が増えて尿量を減らす働きをします。
しかし、睡眠が浅く断続的になると、このホルモンの分泌パターンが崩れ、夜間でも尿量が減らなくなってしまいます。
加えて、無呼吸による覚醒反応により、自律神経のバランスが乱れます。交感神経が過度に刺激されることで、膀胱の活動が活発になり、少ない尿量でも尿意を感じやすくなります。
これらの複数の要因が組み合わさることで、夜間に何度もトイレで目が覚めるという症状が現れるのです。単なる加齢や前立腺の問題だけではない、より複雑な病態なのです。
【見逃しがちなSASの症状!頻尿以外にもこんなサインが】

夜間頻尿以外にも、SASには見逃しがちな症状がたくさんあります。これらの症状に気づくことで、早期診断につながります。
起床時の症状として、口の渇きがあります。SASの方は夜間に口呼吸になることが多く、起床時に舌や口の中がカラカラに乾いています。水を飲んでもすぐには潤わない強い渇きが特徴です。
朝の頭痛も重要なサインです。特に後頭部から首にかけての重い痛みが多く見られます。通常の頭痛薬では改善しにくく、起床後しばらくすると自然に軽減することが多いです。
寝汗も見逃せない症状の一つです。季節に関係なく、パジャマや寝具が汗で湿ってしまいます。これは、呼吸困難により体が必死に酸素を取り込もうとするためです。
胸やけや逆流性食道炎の症状も現れることがあります。無呼吸により腹圧が高まり、胃酸が食道に逆流しやすくなるためです。夜間に酸っぱいものが上がってくる感覚があります。
足のむくみやだるさも関連症状です。夜間の血圧上昇や心臓への負担により、体液の循環が悪くなります。朝起きたときに足がパンパンに腫れていることがあります。
記憶力の低下や物忘れも深刻な問題です。睡眠中の記憶の整理が十分に行われないため、新しいことを覚えにくくなったり、約束を忘れやすくなったりします。
性機能の低下も男性によく見られる症状です。慢性的な睡眠不足により、男性ホルモンの分泌が減少し、性欲の低下や勃起不全を引き起こすことがあります。
体重増加も見逃せません。睡眠の質が悪いと、食欲を調整するホルモンのバランスが崩れ、特に夜間の食欲が増進します。また、日中の活動量も低下するため太りやすくなります。
【放置すると危険!夜間頻尿が招く悪循環とリスク】

夜間頻尿を「よくあること」と軽視して放置すると、様々な健康問題を引き起こし、生活の質を大幅に低下させます。
最も直接的な影響は睡眠の質の悪化です。一晩に2回以上トイレで起きると、深い睡眠が得られなくなります。これが慢性化すると、日中の眠気や疲労感が強くなります。
転倒や怪我のリスクも高まります。夜間に暗い中でトイレに向かう際、足元が見えずに転倒する可能性があります。特に高齢者では骨折などの重大な怪我につながることがあります。
日中のパフォーマンス低下も深刻な問題です。仕事中の集中力低下、ミスの増加、判断力の鈍化により、職業生活に大きな支障をきたします。
運転中の居眠りによる交通事故のリスクも無視できません。夜間頻尿による睡眠不足は、SASによる日中の眠気と相まって、非常に危険な状態を作り出します。
家族への影響も考慮すべき点です。夜中に何度も起きることで、パートナーの睡眠も妨げられ、家族全体の生活の質が低下してしまいます。
精神的な健康への影響も深刻です。慢性的な睡眠不足により、うつ病や不安障害のリスクが高まります。イライラしやすくなり、人間関係にも悪影響を及ぼします。
免疫力の低下により、感染症にかかりやすくなります。風邪をひきやすくなったり、傷の治りが遅くなったりします。がんなどの重大な病気のリスクも上昇する可能性があります。
心血管系への負担も累積していきます。夜間の血圧上昇が慢性化することで、高血圧、心不全、不整脈などのリスクが高まります。脳血管疾患の発症リスクも上昇します。
また、頻尿自体が膀胱機能の悪化を招く場合もあります。頻繁に膀胱を空にすることで、膀胱の容量が小さくなり、さらに頻尿が悪化する悪循環に陥ることがあります。
しかし、これらの問題は根本原因であるSASの治療により改善できます。夜間頻尿が気になる方は、泌尿器科だけでなく、内科の受診も検討してください。
まとめ
夜間頻尿は単なる加齢現象や膀胱の問題だけではなく、SASという呼吸の病気が隠れている可能性があります。特に、いびき、日中の眠気、朝の頭痛などの症状と一緒に現れる場合は、SASを強く疑う必要があります。
SASによる夜間頻尿のメカニズムは複雑で、心臓、腎臓、ホルモン、自律神経など、全身の様々なシステムが関わっています。これらの根本的な原因を治療することで、頻尿の改善が期待できます。
CPAP療法(シーパップ療法)というSASの標準的な治療を行うと、多くの患者さんで夜間頻尿が改善されます。睡眠の質が向上し、ホルモンバランスが正常化することで、夜間の尿量が減少するのです。
生活習慣の改善も重要です。減量、禁煙、節酒、就寝前の水分制限などを組み合わせることで、より効果的な改善が期待できます。
「夜中に何度もトイレで起きる」「以前より頻尿がひどくなった」「泌尿器科で検査を受けても異常がない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
見落とされがちな症状だからこそ、正しい知識を持って早期発見・早期治療に取り組むことが大切です。質の良い睡眠と快適な夜を取り戻し、健康な毎日を送りましょう。